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横浜地方裁判所 昭和38年(ワ)638号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕一、雇用関係の継続中、既に生じた損害及び将来被用者の行為により生ずることあるべき損害のすべてを担保するために締結された契約も身元保証法の適用を受ける身元保証契約と解するを相当とし、それが重畳的債務引受の性質をも有することは、同法を適用することの妨げとならない。

二、判示のように使用者たる会社の内部の業務組織、従業員に対する監督機構に従業員の不正行為を誘発し易いような不備、欠陥があつたこと、すでに不正行為のあることを発見したのに身元保証人に通知しなかつたこと等の事情を斟酌すれば、本件身元保証人(被用者の実父)の支払うべき債務は、最初の不法行為による損害についてのみ負担するものというべきである。

〔判決理由〕身元保証法にいわゆる身元保証契約は雇用関係の開始にあたり将来被用者の行為により生ずることあるべき不確定の損害につき締結されるのを通例とするが、身元保証法はこの点に関しなんらの規定をしていないから、雇用関係の継続中において既に生じている損害でその額の判明したもの及び今後判明するもの並びに将来被用者の行為により生ずることあるべき損害のすべてにつきこれを担保するために締結された身元保証契約もまた、身元保証法の適用を受ける身元保証契約と解するのを担当とする。もつとも、本件契約には勇が自己の不正行為により被告会社に対し損害賠償債務を負担し、かつ負担することあるべきことを前提とし、原告が重量的に右債務の引受をなす旨の文言があるが、身元保証法にいわゆる身元保証契約は、本件契約の如く、被用者が雇用関係に関連して使用者に対し負担する損害賠償債務を担保するために締結されるものであるところ、重量的債務引受も保証債務と同じく他人の債務を担保することを目的とするものであるから、本件契約が重畳的債務引受の性質をも有することは、本件契約に身元保証法を適用することの妨げとならないと解する。従つて、当裁判所は身元保証法第六条に則り、本件契約において約定された原告の保証責任の額を無視して本件に現われた全証拠資料にもとづき、同法第五条所定の事情を審理して原告の負担すべき合理的な保証責任の限度を定めることができるものといわねばならない。

よつて進んで原告の保証責任の限度につき検討する。

被告は前認定のように証券業を営む会社であるからその性格上顧客に対し高度の信用を必要とし、従つて被告会社は取引上特に顧客と接触のある営業課員の監督については、充分意を用い、組織機構の面でも、責任体制を明確にし、職員の不正行為の発生を未然に防止すべき高度の注意義務があるといわねばならない。ところで(証拠―省略)並びに口頭弁論の全趣旨によれば原告会社は客から株券を預つた場合実際にその客に株券の預り証を渡すか否かも係員の一存にまかされており、係員が果して客に預り証を渡したか否かを確めるわけでもなく、又その株券を客に返却する場合、先に渡した預り証と引換えに株券を返還するのでもなく、この点は極めてルーズであつたこと、又客に対する残高の照合、即ち客が会社に預けてある株券、現金の残高を直接顧客に知らせるという事務も、昭和三七年秋頃の東京証券業協会の警告以前は、年にわずか一回位しか行つておらず極めて怠慢であつたこと、(右警告後は同年暮迄に続けて二回も残高照会を実施した。)又売買報告書の送付即ち、営業課員が客から注文を受けて、会社がその株券を買付け或は売つた場合その旨の報告書を営業課員を通さず直接会社から客に送付する事務も前述の警告以前は、営業課員の手を通して客に渡すことになつており、もしも営業課員が不正をしようと思えば、それを渡さずに済んだ様な状態であつたことが認められ、右認定の妨げとなる証拠はない。右事実によれば被告会社の内部の業務組織、従業員に対する監督機構は従業員の不正行為を誘発し易いような不備、欠陥があつたものというべく、このことは勇の最初の不正行為が被告会社に発覚したのが凡そ一年二ケ月後の昭和三七年一二月二二日頃であつた事実、しかも右発覚は前記警告によりようやく明るみに出た点、更に他の二、三の営業課員の不正行為も時を同じくして発覚している事実等によつてもこれを裏書きするに足るものである。従つて、被告会社の業務組織、従業員に対する監督機構に前記のような不備、欠陥がなく、被告会社が当然なすべき事務を行い、又監督を怠らなければ最初の不正行為である原告主張の請求原因第二項記載の(イ)の不正行為は被告会社において直ちに発見することができ、しかもその後の(ロ)以下の不正行為はいずれも未然にこれを防止することができたものというべきであるから、被告会社の勇に対する監督上の過失は重大なものというべく、更に前述(証拠―省略)によれば被告は昭和三七年七月頃勇に業務上の不正行為のあることを発見し今後一切かかる不正行為をしない旨の誓約書を差入れしめたのにかかわらず当時身元保証人であつた原告に対し右の事実を通知しなかつたこと、勇は原告と同居して被告会社に出勤していたが、勇の日常生活には原告をして同人の不正行為に気付かせるような異常不審な言動が現われていなかつたことが認められるので、以上の各事実及び前叙認定の原告が本件契約をなすに至つた事由その他本件に現われた諸般の事情を斟酌すれば原告の身元保証人として支払うべき債務は、最初の勇の不正行為即ち、昭和三六年一〇月六日被告会社が顧客たる訴外伊藤哲次から預り保管中の東洋高圧株式会社株式三〇〇〇株を右伊藤の依頼と称して被告会社をして売却せしめ、その売却代金一九〇、五〇〇円也を右訴外者に引渡すと称して被告会社から受領し乍ら之を同人に引渡さないで横領したため被告会社の被つた右同額の損害についてのみ負担し、爾後の不正行為によつて発生したる損害額についての身元保証債務は発生しないものというべきである。

然るところ、成立に争いのない甲第三、第四号証、前顕証人福井勇の証言、原告本人尋問の結果によると本件契約の主たる債務者たる勇は、昭和三八年一月八日債務の一部弁済として金三〇〇、〇〇〇円を支払い、身元保証人たる原告は同三八年一月一八日保証債務の内入弁済として金一〇〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つた事実が認められる。

被告は右支払金は勇が不正行為により得た金で或いは借地権を取得したり或いは自ら預金していたものから支払われたものであると主張するが、原告の支払つた金一〇〇、〇〇〇円は原告の財産から支払われたものであるが、勇の支払つた金三〇〇、〇〇〇円は同人が昭和三七年五、六月頃訴外地主某から土地を借受けた際支払つていた権利金をその後同地主と話し合いの上返還を受けこれを右の如く債務の弁済に充当したものであり、しかも右権利金は同人が不正行為により得た金銭と自己の給料から賄われたものであることが窺われるが、被告会社は勇の本件不正行為により被つた損害賠償債務の弁済として金三〇〇、〇〇〇円の支払を受けたものである以上、右支払金の出所が右認定のようなものであることは弁済の効力になんらの消長を及ぼさないものというべきである。従つて、被告の右主張は理由がない。しかして勇の支払つた金三〇〇、〇〇〇円の弁済充当については、当事者による弁済充当の指定のあつたことの認められない本件においては、法定充当によるべく、従つて、弁済期の先ず至つたもの、即ち最初に発生した不正行為により被告会社の被つた損害賠償債務金一九〇、五〇〇円の弁済に充当せられたものというべきである。そうすると身元保証人たる原告の負担する保証責任は主債務の弁済により消滅したものというべきである。(久利馨)

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